冬の時期になると気になるのが静電気です。
着替えで化学繊維の服などを脱ぐとパチパチしたり、ドアのノブや金属製のものに触れるとパチッと言って傷みさえ感じることもあります。
そんな時体に流れる静電気の帯電量は 3,000V以上もあるようです。
しかし、1,000V以下の静電気では人はほとんど感じないとされていますが、感じられないのは、電圧は高くても、流れる電流が僅かだからです。
今回、株式会社KEYENCEより静電気の電圧を測定出来る《ハンディ型静電気測定器》をお借りしましたので、レコード再生に関係のあるものの静電気電圧などを調べて見ました。
ハンディ型静電気測定器の使い方はとても簡単で、電源を入れて先端から出る照準のような2本の赤いレーザー光線が測定物に当たり、交わる所でスタートボタンを押すだけで測定が出来ます。
また、測定時の温度や湿度、時間も表示されるので、これらの違いによる電圧の違いなども調べることが出来ます。
価格が安ければ絶対に欲しい測定器ではありますが、業務用のため大変高価ですので諦めました。
左の写真は、除電ブロアでカーペットの除電を行い、静電気がゼロ(中和)の状態です。
室温が20.5度、湿度が50%と表示されています。
いろいろと試させて頂きましたが、敏感な測定器(敏感でないと困ります。)
で、リアルタイムで測定していくと、どんどん電圧が変化します。
これから表示します電圧は、限られた環境の中で行っていますので、絶対的な数値ではありません。
あくまで参考としてご覧下さい。
レコードの静電気電圧
右の2枚のレコードは、Speakers Corner Records
のナタン・ミルシティン盤で、10年位前に同時に購入したものです。
私はジャケットが黄ばんだり痛んだりするのが嫌なので、密閉タイプのアウター(外袋)に入れて保管をしていますが、メーカーの密閉セロファンはすぐに剥がしてしまいます。
それは何度か嫌な思いをしているからです。
温度や湿度によりセロファンが収縮してジャケットや盤を反らせたりすることがありました。
また、セロファンをしたままアウターに入れると、セロファン無しでアウターに入れた時よりレコード盤の帯電が大きいように感じていたからです。
このミルシテイン盤は丁度良いことに1枚はセロファン付きで、もう1枚はセロファンを取っていました。
両方とも5年くらい前にインナー(内袋)をShop.で販売している紙製のものに変更していますが、それから5年位は棚から取り出していないレコードでした。
左のセロファン有りのミルシテイン盤と右のセロファン無しのミルシテイン盤をジャケットから取り出して並べて見ました。
左のミルシテイン盤のジャケットにはセロファンに貼られたSpeakers Corner Recordsのシールが見えていますので、セロファンが付いていることがわかると思います。
5年も経っているので、静電気は放電されて少なくなっているとは思いましたが、このままの状態で、それぞれの静電気電圧を測ってみました。
左側は、セロファン付きのジャケットから取り出したレコードの静電気電圧 −255V、右側はセロファンを取ったジャケットから取り出したレコードの静電気電圧 −121V となりました。
大きな違いはありませんでしたが、レコードの取り出しにセロファンとアウターが擦れて静電気が発生し、それがレコード盤に帯電したのだと思います。
静電気にも +の静電気と、− の静電気が有り、レコードの主な素材であるヴィニール(塩化ヴィニル)は、図のように− の静電気が帯電しやすいようです。
出典:KEYENCE 『静電気の教科書』静電気の性質・大きさより
次に一般的なポリエチレン製のインナー(内袋)と紙製のインナーではレコードの帯電電圧がどの位違うのかを
調べて見ました。
各インナーにレコードを入れたまま除電ブロアで帯電電圧をほぼ0Vにして、各インナーからレコードを取り出して、また、元のインナーに戻して帯電電圧を測定してみました。
これは明らかに違いました。
ポリエチレン製のインナーの方は最初は − 204Vかと思いましたが、よく見ると − 2.04KV、つまり − 2,040Vでした。
帯電例の図にもあるようポリエチレン製のインナーとヴィニールは − の電気を帯びやすいので、大きく違いが出たのでしょう。特にポリエチレン製のインナーは、束ねてある新しいものを使用したために高い電圧がでたのだと思います。
紙製のインナーは、−177Vでした。
紙製やグラシン紙製のインナーはポリ製のインナーと比べて価格は高いのですが、レコードの帯電防止には有効のようです。
レコードグッズによる帯電 ?
今回行った静電気電圧の測定で一番驚いたのが、レコードクリーナーによる帯電でした。
手元にある3種類のレコードグッズ使用によるレコードの帯電圧の変化を測定してみました。
使用したレコードグッズは使用年数がそれぞれバラバラで、経年変化も考慮しなければ本来の実力が出ないと思います。おおよその使用年数なども書いておきますので、そちらも参照の上ご覧下さい。
レコードは先程と同じ、Speakers Corner Recordsの
ミルシティン盤を使用しています。
レコードの下には紙製のインナーを敷いて、その上にレコードを乗せてあります。
室温は21° 〜22°くらいで、湿度は44% 〜46%くらいで
それぞれ調べています。
それぞれ除電ブロアを使用してレコード自体の除電を行い帯電圧を0V〜20V程度にしてから測定しています。
(0Vにしても撮影する間に帯電してしまいます。)
こちらのクリーナーは、乾式、湿式の両方を備えたクリーナーで、専用の補充液があるのですが、成分に『水、防腐剤、界面活性剤』を使用となっています。
本来は湿式から乾式にバトンタッチするよう使用しますが、もう一つのクリーナーが乾式のため、こちらも乾式面で使用しました。購入から半年位だと思います。
乾式面で盤面を3週(3回転)クリーニングしました。
目視ではゴミは取れているようですが、盤面の帯電電圧は一挙に-935Vまで上がってしまいました。
この除電ブラシはかなり年季が入っていて5年位前のものだと思います。よく見ると毛の付け根の方にコーティングされていたものが所々取れてしまい無くなっています。
この状態で、盤面を3週分掃くように金属部に手を添えて作業をしました。狙ったゴミは取れましたが、他の場所に取れたゴミが付いたりします。
盤面の帯電電圧を調べると−1.95KVでした。
コーティングが取れたこと、通常の使用方法ではないことなどが原因だと思います。
こちらのクリーナーは、ベルベットのクリーナー部分が二つ、その真ん中にカーボンのブラシが付いていて、半年位前に2代目を購入しました。
一番多く使用しているもので、盤面のクリーニングと除電の両方を同時に行えるので重宝しています。
このコリーナーも、乾式クリーナーやブラシと同様に3週(3回転)クリーニングをしました。
目視ではゴミも取れていて、盤面の耐電圧も-280Vとそれ程大きく上がりませんでした。
湿式のクリーナーであれば一番帯電電圧を日忌諱できると思いますが、クリーニング面を湿らせるための補充液に入っている防腐剤が蒸発せず盤面に残った場合の弊害が心配です。
余談になりますが、レコード盤面を水道水や井戸水で洗う方がいらっしゃいますが、水道水や井戸水には溶けたカルシウムやマグネシウム などのミネラル成分が含まれています。
水道水や井戸水が蒸発して無くなった後に、白くすじが残ったり、水滴の痕が残っているのがカルシウムやマグネシウムなどのミネラル成分です。
レコード盤を洗った後にも盤面にこれらが残ります。その上を針がトレースすれば良い訳はありません。
これらを予め除去してある精製水をお使い下さい。
さて、 除電ブラシは最新の製品であれば通電コーティングにより帯電電圧は一桁違っていたと思います。
レコードのクリーニングと除電を一緒に出来る除電クリーナー + ブラシは優秀でした。
レコードに限らないようですが、静電気によりゴミやホコリが付きやすくなる帯電電圧は −1,000Vあたりを堺に急激に付着しやすくなるようです。
レコード再生中の盤面帯電電圧の変化
今回KEYENCEよりお借りした《ハンディ型静電気測定器》のおかげでレコード再生に関連するものの静電電圧を知ることが出来ました。また、身の回りの殆どのものが静電気を持っていることに驚きました。
《近づけたり》《触れたり》、《擦れたり》するだけで帯電電圧が大きく変わることもわかりました。
折角なので、ナタン・ミルシテインのチャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲を聴きながら、レコード再生中のレコード盤面の帯電電圧の違いを調べて見ました。
このレコードは最近では珍しいA面にチャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲、B面にメンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲とかなり詰め込んでカッティングされています。
除電ブロアでレコードを除電しましたが、ターンテーブルに乗せただけで電圧が変わりました。
この時の室温は23° 〜 24° 湿度は47% 〜 43% で測定しています。
ちなみにプレーヤーはLINN LP-12にSME3009という年代物に、オリジナルのターンテーブルシート(フェルト製)カートリッジはortofon 2M BRONZEで再生しました。
この組みあわせでは、第1楽章の初めで盤面の帯電電圧が-48V、第3楽章の終わり頃(約30分経過)には盤面電圧が-862Vに変化していました。
変化の原因はいろいろと考えられます。
単純に考えれば、ターンテーブル・シートと盤面の摩擦や、盤面と針先の摩擦などにより帯電しそうです。
また、音質に関しても帯電したレコードが及ぼすカートリッジへの影響などもあると思います。
物理的にレコードの内周再生は、外周の再生と比べて不利になりますが、加えて帯電量が増えて行くことでも再生に悪さをしているかも知れません。
レコード再生には《近づけたり》《触れたり》、《擦れたり》の全てが係わるため静電気からは逃れられないと思います。
中身の濃い内容ではありませんが、レコード再生をされる方の参考になれば幸です。